都市基盤整備事業推進大会
平成29年度 都市基盤整備事業推進大会
特別講演
株式会社 昭文社
出版推進事業部 事業推進グループ ことりっぷ担当
大川 朝子
本日はこのような場をいただきましてありがとうございます。昭文社の大川朝子と申します。
「ことりっぷ」というと聴きなれない方も多いと思いますが、弊社は長年皆様方に大変お世話になっている会社でございます。
「マップル」というブランドで道路地図や都市地図を出版しており、道路や区画整理などの最新情報を皆様に教えて頂き、各自治体様向けの「道路利用促進マップ」などを収めております。
いつもありがとうございます。
●ことりっぷについて
ことりっぷとは、「小さい」「旅」という意味です。
20~30代の働く女性に向け、週末に行ける1泊2日から2泊3日の小さな旅を提案したガイドブックです。
国内版と海外版をあわせ、ラインナップは100点以上ございます。「信州」という大きな括りではなく、「小布施」「安曇野」という狭域(小さなエリア)ごとでまとめ、2泊3日で一冊まるごと使い切るつくりにしました。
2008年に創刊し、10周年をむかえます。このようなガイドブックは通常3年ほどで役目を終えるのですが、女性に圧倒的な人気で異例のロングセラーを続けています。
●コアファン
このガイドブックの特長のひとつは「ことりっぷ大好き!」というコアなファン、リピーターの女性が多いことです。一度ことりっぷを利用して、「良い旅ができた」ことになると、次もことりっぷで旅をする方が多くいらっしゃいます。紹介されているお店に行ってみたら「よかった」という情報の信頼性と、「表紙も中身もかわいくて、持っていておしゃれ」という女子心を掴みました。
「旅先が決まってから、必要になって買う」というのがガイドブックだと思いますが、「いつか行きたいから」「かわいいから」と2~3冊まとめて気軽に買う、雑貨のような珍しい本でもあります。
●ブランド化、媒体の広がり
このガイドブックの人気を受け、媒体も広げています。年4回の季節号、雑誌『ことりっぷマガジン』、ウェブアプリ電子書籍など、様々なメディアで、全国各地への旅・おでかけの情報を伝えています。
さらに媒体の域を超えて、ブランド化しています。トラベルグッズステーショナリーや、お弁当などの食品は、いずれも、働く、そして旅する女性に役立つことりっぷプロデュースの商品です。
●特長
例えば(一例を挙げると)、富山県様とのタイアップによる「ことりっぷ富山」では、一般的なランチスポット紹介するにとどまらず、「心にも身体にもやさしい薬膳ランチ」とテーマを設け、「土地特有の文化」に触れられる内容にしました。
女性のニーズに応えるため、あえて数を絞り、多くの場所を紹介しないことにしています。
各地の巡り方を案内するモデルコースに『ことりっぷ』と他のガイドブックとの違いがあります。
目的地を決めて欲張ってまわるのではなく、ゆっくり散歩して過ごすような1日を紹介をしています。
●旅の提案
このように、「ことりっぷ」は、ただ「見る・食べる・遊ぶ」スポットを紹介するのではなく、「旅のスタイル」を提案しています。車ではなく、電車などで各地に向かい、現地では歩いたり、レンタサイクルで移動するスタイルです。
・現地に溶け込み、ゆっくり散歩するような旅をする。
・テーマ性のある自分だけの「オリジナルの旅」をする。
・旅が終わる頃には「リフレッシュ」している。
以上を踏まえて、時間的にも、経済的にも無理のない、「女性にとって、心地よい旅」を追求しました。
「歩いて」「土地の魅力を自分で見つける」ことがポイントで、この点で皆様とも関係してくることかと思います。
●ことりっぷヒットの理由
僭越ながら、ヒットの理由、すなわち「10年も女性にモテ続けている」理由は何かをひとことで申しますと「女性の願い(夢)を(とことん)叶えた」からです。
20~30代の働く女性がお金を使いたいことは、10年前から今も変わらず、「旅行」がダントツです。
これは女性が「モノよりコト」に重点を置いているからだといえます。つまり、日常と離れた土地を訪れることにより、「自分の気持ちが変わるコト」「異なる土地にて、普段とは違う価値観を持つコト」を求めているのです。
●旅する女性の願い
女性の「一番の楽しみ」であり、これだけは消費してよいと思える「旅」において、ことりっぷ編集部では大きな課題から細やかなニーズまで、とことん「女性のわがまま」を叶えるようにしました。
旅好きな女性1000人にリサーチするなどマーケティング調査を通じて、女性のニーズを徹底して深堀していきました。
ガイドブックで叶えた「女性のわがまま」は大きく3つあります。
・旅先で重いのは負担。
⇒重さ150グラムにして軽く、かばんにすっぽり入るサイズに。
・表紙が恥ずかしい。「東京・京都」と大きな文字でガイドブックとわかるのはイヤ。
⇒手帳のようなシンプルなデザイン。表紙にはさりげなく地域のモチーフをちりばめています
・あれこれ紹介されても困る。迷ってしまう。本当におすすめできる情報だけ教えてほしい。
⇒女性目線で、友達に教えたいようなおすすめのスポットに絞って紹介。通常の1/4。
他にも、手触りや視覚にもやさしくなるように、女性の五感に訴えることも意識しています。
●自治体との取り組み事例<ことりっぷ現象>
発売後、想定外の事態が起きました。
まず「こんなガイドブックが欲しかった!」「かわいいもの見つけた」と口コミで広がりました。
「ことりっぷ」を片手に、各地をゆったりと巡る若い女性が全国各地に発生しました。
2008年2月の発売から半年後には「若い女性の旅のスタイルが変わった。そのきっかけがことりっぷ」と、新聞にも取り上げられました。
●自治体からのモテモテ現象
この「ことりっぷ現象」を受けて、自治体様の観光課や観光協会、航空会社などの交通機関などから「ことりっぷ」と何かやりたい、女性客誘致に活用したいとオファーをいただくようになりました。
書店で販売するガイドブックのほか、自治体様発行のフリーペーパー、小冊子も多く製作しました。これまで、自治体だけで60冊、民間とあわせて130冊を各地で配布していただきました。
●嬉しい出来事
横浜関連のことりっぷだけでも、区ごとの紹介のほか、「シーサイドライン」を利用して市内を楽しむ内容のもの、今春のイベント「全国都市緑化よこはまフェア」に女性客を誘致するものなどさまざまです。お花ガーデンショーは若い女性に人気です。
その中で、私どもとしても嬉しいことがありました。2015年春、横浜市鶴見区様と平塚市様で同時期にことりっぷが発行されたのをきっかけに「ことりっぷで行く市民交流ツアー」が催されました。
横浜市の方は「ことりっぷ平塚」を持って、平塚市の方は「ことりっぷ鶴見区」を持ってお互いの都市の魅力を再発見する、いうものでした。
●自治体様の傾向
自治体様との小冊子では、テーマや紹介するスポットをことりっぷ編集部が決めることが多かったのですが、近年では、自治体様で明確なコンセプトを持ってらっしゃるケースが増えました。
よく「うちの町には何もない」と耳にしますが、どの町にも魅力は必ずあり、女性におすすめできるポイントがあります。私たちは、それを「ことりっぷ目線」で見つけて、伝えています。
自治体様のお立場ではなかなかできないことでも、ことりっぷを通して実現できることもあります。
その土地が持つ魅力を引き出しながら、常に「地域と女性を繋ぐ役割」を果たしています。
●旅好きな女性にうれしい道、町
今、女性は、ことりっぷが提案する旅のように、「土地の魅力を自分で発見したい」と思っています。
その点で「歩く(歩きながら)」「その土地ならではの風景やモノ・ヒトに出会える」ことが重要です。近年、本日お集まりの皆様のおかげで「旅行者にやさしい道」が充実してきました。
「自動車メインから歩行区間を充実させる道路整備」を各地で見かけるようになりました。
●中心地につなぐ遊歩道とマルシェ
私自身が弘前、秋田、金沢などの城下町で見つけた遊歩道のお話をしたいと思います。お城がある町の中心地まで駅から少し距離がある場合、バスや自動車が通る道とは別に、駅の中心地まで続く遊歩道がありました。ストレスなく歩いて、気づくと目的地に到着していました。「距離を感じさせない」道でした。
このような遊歩道は市民の憩いの場でもあり、土日に市マルシェもたつので、地域ならではの食材や生活の息吹に触れられて、市民だけでなく旅行者にもうれしいことです。
市民の台所は旅行者にとっては異国情緒たっぷりです。
シャッター商店街は各地での課題ですが、昔ながらの商店街も、地域ならではのものに触れられて、うれしい道です。レトロ商店街はことりっぷでもよく紹介しています。
●道の人気ポイント
では、女性は具体的に「道のどこ」を見ているのでしょうか。
例えば、「マンホール」やオブジェなどがあります。
さりげなく、地域のモチーフや町の文化がわかるものが刻まれていたり、カラフルな色合いのものがあると、「見つけた」と写真を撮りたくなります。「昭和レトロブーム」となって久しいですが、昔から残るおしゃれな看板や喫茶店を見つけながら歩くためにも「路地」「路地裏」は貴重な道なのです。
●各地にあるはず!すてきな通り名
今、「まだまだ知られてない道通り」の価値は高いです。自分で見つける「自分だけの旅」ができるからです。さらに通り名が「ひらがな」で親しみやすかったりすると、行ってみたくなるものです。
たとえば岩手県岩泉町の「うれいら通り」。名所「龍泉洞」の近くにあるのですが、ネットで検索してもなかなかでてきません。しかし、「ことりっぷ」では紹介しています。
栃木市の「巴波川と綱手道」、そして「日光例幣使街道」は、代表的な歴史街道ですが、古くからのお店とともに、若者によって改装された古民家が、おしゃれな雑貨屋さんやカフェとなって点在しています。
●歩きたくなる町
歴史文化に価値を見出し、引き継いだ若者が、新たにお店を開き、町を盛り上げています。そういった場所には女性も集まります。これが歩きたくなる町です。
男性女性、国内外を問わず共通しているのは、「日本的なもの」「懐かしい風景」「当たり前の風景」を求めているということです。皆様の町にもきっとあると思います。
皆様にとっての当たり前「地域の日常」が宝物であると確信しています。
●地域の魅力ブランディング
全国のその土地その土地に、必ず特性、魅力があります。
それぞれの土地に歴史があり、先人からの知恵、固有の文化があり、人々の生活や、小さな営みが積み重なった物語があります。それこそに価値があります。
他の土地では決して生まれない、オンリーワンの魅力を知りたがっている女性は多いです。
これからも私たちは土地の良さ、その地域が持つ価値を再発見して、切り取り、さらに付加価値を付け、全国の女性に伝えていきたいと思います。
とはいえ、知らないことばかりですので、これからも皆様方から色々とご教示いただけたら幸いです。
また、お役にたてることあれば、いつでもお声かけください。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。長い間ご清聴ありがとうございました。